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読書会レポート 2023年5月

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~谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』~

 今回は、飯田橋の新しい会議室で開催しました。
 
 テーマの本は、一匹の猫を巡り起こる男女の三角関係を描いた小説です。
 
 まず、猫の「リリー」という名前が話題にのぼりました。これは、この小説が書かれた1936年ころとしては、とてもハイカラな名前なのです。
 リリーはヨーロッパ種の牝猫という設定です。谷崎には、西洋の女性を崇拝したいという思いがあったんだろうという話になりました。

 庄造は優柔不断なダメ男なのですが、なぜか老若男女に愛され、二人の女から取り合いになっています。
 なぜこんなにもてるのかわからないが、こんな男になってみたいという声もあがりました。

 といっても、猫のリリーは別です。リリーも庄造になついてはいるのですが、行動はやはり気まぐれです。
 リリーは庄造の妻の福子からの嫉妬をかい、前の妻の品子へと譲られてしまいます。
 思慕の念を抑えきれない庄造は、福子の目を盗んでリリーに会いに行きますが、そこでリリーからそっけなくされます。
 リリーはほぼ庄造のことは忘れていて、今度は品子になついているのです。

 こう見ると庄造が哀れに見えてくるのですが、「実は庄造は喜んでいるのでは」という声もありました。
 
 よく「自分は猫の下僕だ」と嬉しそうにいう人がいますが、そういう人には猫に振り回されるのが嬉しいのかもしれません。人間の幸せの形はいろいろだな、と思いました。

(by Der Wanderer)
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読書会レポート 2023年4月

~コンラッド『闇の奥』~

 フランシス・コッポラの映画「地獄の黙示録」の原作となった小説。
 今回は久しぶりに電脳世界から出て、飯田橋の会議室で開催しました。

「『地獄の黙示録』はこの作品をかなり忠実になぞってますね」
「主人公のクルツが、アフリカの奥地の密林で象牙を集めながら、魂が狂っていくという物語だよね」

「クルツは知性は狂っていないが、魂は狂っているんですよね」
「なぜ狂ったんだろう?」
「どんな法律も信仰も通用しない密林で、孤独に暮らしていたからでしょう」
「そうだね。そうなると、自分の内面をひたすら覗き込むしかないんだよね」
「人間の極限の状態が描かれている気がします」

「クルツも語り手のマーロウもヨーロッパから来た白人で、アフリカで象牙を収奪する侵略者なんですよね」
「黒人の原住民がいかに残酷に扱われているかが描かれているね」
「しかし、反植民地の小説というわけでもないんだよな。黒人の多くは名前もなく、一種の風景として片づけられている気がします」

「クルツの凄さがいまひとつわからなかったんです」
「マーロウはクルツは万能の天才だと言っているけどね」
「おそらく、姿を見せず正体がわからなかったので、多くの人がものすごい人物だと妄想してしまったのかも」
「昔、アフリカには『見えない王』というのがいたそうですよ。人前には絶対に姿を現さず、隠れて暮らしていたそうです」
「そうやって神秘性を高めていたのかな。クルツにもそういう側面があったのかもね」

(by Der Wanderer)

読書会レポート 2023年2月

~モーム『英国諜報員アシェンデン』~

「サマセット・モームのスパイ小説ですよね」
「モーム自身がイギリスのスパイだったんだよね」

「スパイとして活躍していた作家って、けっこう多いそうです」
「なんで作家はスパイになるんだろう。というか、スパイになるような人ってどんな人?」
「冒険好き、お金に困っている、派手好き、人間観察力が鋭い、大胆、細心、社会に不満を抱いている……という感じかな」

「メキシコ人スパイの話が面白かった。ものすごくほら吹きで、いかにも自分のバックに大物がいるように見せかける。陽気なのに残酷で、平気で人を殺す……」
「しかも最後に殺した相手が人違いだったと。どうしようもなく抜けているスパイですよね」

「チャンドラ・ラルというインド人の革命家が出てくるじゃないですか。イギリスからインドを独立させるために命をかけている人」
「ラルは、イギリス政府のスパイであるアシェンデンからすると敵なんだよね。でも、アシェンデンはラルを高潔で私欲のない人物だとして称賛してますね」
「そのあたり、人物評価が公平ですよね」
「作者自身がそうだったんじゃないかな。人間をいつも冷静に突き放して見ていますよね。一方に肩入れすることもなければ、他方を無闇に排斥したりもしないという……」
「そうでないとスパイにはなれないし、こういう小説も書けないんでしょうね」

「アシェンデンがロシア革命前のロシアに乗り込んで、いろいろ工作する話がスリリングですね」
「僕は二回ほどロシアに行ったことがあるけど、今と大して変わってないじゃんと思いましたね。街にレストランがほとんどなく、物が欠乏していて、やたらと治安が物騒だというやつ」

 ――というように、話題は世界を駆け巡っていったのでした。

(by Der Wanderer)

読書会レポート 2023年1月

~ブラッドベリ『火星年代記』~

 火星での出来事を描いた短編を数珠つなぎにした本作。
 会では会議室を借り、こんな話をしていました。

「地球人が火星人と接触して騒ぎになる、という話が多いですね」
「異文化との接触だね。これは地球でも十分に起こりうることだよね」

「この本みたいに、いきなり家の扉をノックされて『こんにちは。私は宇宙人です』とか言われたらどうする?」
「私ならドアを開けて、話を聞いて、お茶でも入れてあげますね」
「この本の中では、火星人宅を訪問した地球人は相手にされないよね。こういう反応が実は多いのでは?」

「『月は今でも明るいが』に出てくるスペンダーに共感します。多くの地球人の探索隊が、火星を略奪して支配することしか考えていないのに、スペンダーは火星人の文化に共感して、それを守ろうとしますよね」

「『時間の匂いがただよっている』とかの詩的な表現がいい。時間をこんな風に捉えることができるんだと新鮮でした」

「火星人の性格が一貫していないと思わない? 初めは残酷で陰湿な性格なのに、いつの間にか崇高で慈悲深いということになってますよ」
「たしかにね。どうしてだろう?」
「火星人の性格が変わったのか。地球人から見たら一貫していないだけで、火星人の中では一貫しているのか。それともブラッドベリの書き飛ばしか……どれなんだろうね」

「『沈黙の町』が一番よかったです」
「僕もそう。地球人も火星人もいなくなった火星で、男一人と女一人だけが生き残っていて……という話だね」
「人間くさいね。というか、全体を通してこの本は地球くさい。ブラッドベリは『この本はSFではない』と言っているけど、SFの衣装を着ながら、本当は人間のドラマを描きたかったんだろうね」

(by Der wanderer)

読書会レポート 2022年12月

~宮沢賢治『注文の多い料理店』~

 表題作をはじめ、賢治のメジャー・マイナーの童話を散りばめた作品集です。

 会で話されたのはこんなことでした。

●この本の中では、特に「注文の多い料理店」「どんぐりと山猫」「ひかりの素足」が人気でした。

●描写が詩的で美しい、「どってこどってこ」といったオノマトペが面白い、けっこう笑える話があるという感想がありました。

●「バカにされたり、ひ弱な登場人物がよく出てくる」という意見がありました。
 これは賢治の「雨ニモマケズ」の中に「デクノボウと呼ばれ……そういう人に私はなりたい」とあるように、それが賢治の理想だったんだろうという声もありました。

●ストーリーの矛盾について。

「注文の多い料理店」では、冒頭で二人の紳士が連れてきた犬は死ぬのに、最後にふたたび現れ、登場人物を救います。
 これはなぜなのか、という疑問の声があがりました。

 これについては、次のような推理が出ました。

・死んでいるように見えて、実は死んでいなかった。
・犬は死ぬが、その前に紳士は山猫に化かされ、幻想の世界に入っている。つまり現実には犬は死んでいないのではないか。
・単なる賢治の書き間違い。

 解釈の難しい問題ですが、賢治は前書きで「わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです」と言っています。

 だから、賢治も実はよくわかっていなかった、そういう矛盾も含めて賢治の幻想世界なのではないか、と思いました。

 まだまだ話したりないこともあって、もうすこし時間が長くてもよかったな、とも思いました。

(by Der Wanderer)
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東京読書会

Author:東京読書会
古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
肩の力を抜いて、真面目な話でなくてかまいません。

まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
古典的名作だけに、読んで損をすることはないでしょう。

参加される方の割合は、初めての方とリピーターの方が半々といったところです。

★「FRaU」(講談社)、『TOKYO BOOK SCENE』(玄光社)、NHK「ラジオ深夜便」、東京ウォーカー(KADOKAWA)で東京読書会が取り上げられました!


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