第30回 読書会レポート

~安部公房『砂の女』~

 前回に引き続き、今回も10人ずつ二つのグループに分かれて読書会をおこないました。

 当初、私の印象では『砂の女』という作品は「読みやすい本ではあるけど、非現実的な世界を生々しく描いていて、何だかよくわからないけど不気味な作品」という程度のものでしたが、参加者の中から様々な意見があがり、おおいに参考になりました。

 特に著者が表現したかった基本テーマじゃないかという声が散見されたのが、「極限状況での人の意識の変化」といったところでしょうか。当初は牢獄の様な空間に繋がれて、何とか脱出したいと奮闘していた男主人公も、度重なる失敗を経験する内に、いつの間にか今いる環境に飼い慣らされてしまう、その様がリアルではないかという意見です。

そもそも、主人公の男は脱出したいと表向きは主張する一方で、実際には、それほど外の世界への戻ることへの希望がない。外の世界も男にとっては唾棄すべき現実であり、読者側としても、読み続けていてもあまり説得力のない、不完全燃焼な脱出劇を見続けているような感覚に陥るのです。その意味では、男にとっては砂地も外の世界も若干環境が変わっただけで、基本は同じく牢獄であり、「おかしい」と思いながらも与えられた環境の中で生きることを強いられる様は、もやもやした現代社会(という言い方が適当なのかはわかりませんが)を生きのばししている私たち読者の心に、何かしら共鳴させるものがあると思います。

読書会の中で意見がありましたが、主人公の男にしても、砂地で共に生活する女にしても、あまり読者の共感を誘うような人物ではなく、「自己顕示欲の塊の様な男、何事にも受動的な女」という形で、狂った世界の中で、人間の見たくない部分を見させられた気もします。そうした人物描写も含めて、著者なりの現代社会に対する何らかの皮肉を描きたかったのではないか、という意見が多く上がりました。

私は途中で用事があり読書会を退席しましたが、様々な方の意見を伺うことで、一人では気付かなかった新しい視点や深い視点などを発見でき、刺激的な会でした。来月の読書会でも多くの方の興味深い意見を伺えることを楽しみにしています。

(by 古川琢哉)
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古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
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まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
古典的名作だけに、読んで損をすることはないでしょう。

参加される方の割合は、初めての方とリピーターの方が半々といったところです。

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