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読書会レポート 2015年8月

~ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』~


1920年代初頭の社交界・・・。

華やかに着飾り人々が集うその舞台は、心さえも装い、自然な感情を忘れたよそゆきの世界。自らに課した役割や世間体に囚われるあまり、自身の人格すらも見失った人々が生きる社会である。そんな特異な環境に身を置く、伯爵夫人マオ。ともすれば容易に捨て得る美徳に縛られ、どうする事も出来ないせつなさに共感して本書を推薦した。

 その見事な心理描写から「どのページにも、将棋の駒の塔や道化の動きとすこしも変わらぬと云えるような、女の心もしくは男の心の動きがある。作者の確実にして冷酷な操作に象牙のぶつかりあう乾いた音が感じられる(アルベール・チボーデ)」と評された本作品。タイトルとなりながらも、作中開催を見ずに終わった舞踏会をはじめ、主要人物のその後の予測も、読み手により異なるものとなった。

・無駄のない簡潔すぎる一行一行に緊張を強いられた
・心の葛藤が面白い

という声が聞かれる一方、

・感心はしたが、感動は無かった
・読んでいても、全く続きが気にならず辛かった
・この小説は、淫らなのか(謎)

といった異見も・・・。論文のように淡々と書き進められる文章に、血の通いが感じられず、登場人物の誰にも共感できなかったという方もいた。

・天才といえども、恋愛小説を手掛けるには人生経験が乏しすぎたのではないか
→ だから、感情的な人間らしさが描かれていない
・(対して)書けなかったのではなく、書かなかったのではないか
・敢えて“文章のまずい様式”をとっているのでは?

と捉え方も様々であった。

また、植民地出身と記されたマオの人格や、母親の死産(弟)が彼女に与えた影響、当時の恋愛観についても話が及び、思いもかけない角度からの御意見を数多く伺う事ができた。急展開の小説やドラマが溢れる現代、目に見えた進展の少ない本書が題材として適切か心配もあったが、心理小説の傑作とも言われる所以の描写の巧みさに、引き込まれた参加者も少なくなかったようだ。

定まった課題本はあれど、異なる訳者の本が持ち寄られ、とりどりの視点が挙げられる読書会。参加後に再読すると、一人の読書では見えなかった何気ない表現や描写に目を留められる。今回も、一つの作品について語り合う楽しさを与えて頂いた事に深く感謝申し上げたい。

(by C.K.)
プロフィール

東京読書会

Author:東京読書会
古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
肩の力を抜いて、真面目な話でなくてかまいません。

まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
古典的名作だけに、読んで損をすることはないでしょう。

参加される方の割合は、初めての方とリピーターの方が半々といったところです。

★「FRaU」(講談社)、『TOKYO BOOK SCENE』(玄光社)、NHK「ラジオ深夜便」、東京ウォーカー(KADOKAWA)で東京読書会が取り上げられました!


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