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読書会レポート 2020年5月

~ショー『ピグマリオン』~

『マイ・フェア・レディ』はシンデレラストーリー?(-Not bloody likely!)

1914年初演の『ピグマリオン』ですが、その2年後、ショーは次のように始まる後日譚を書き加えています。
「物語の続きは、わざわざ芝居にしてお見せするまでもないだろう。それどころか、もし我々の想像力が怠惰にも、ロマンスという店主が必ずしもあらゆる物語にフィットするわけではない「ハッピーエンド仕立て」の服ばかりを取り揃えている古着屋の安い吊るしに依存して涸渇しているのでなければ、本当は語る必要すらないのだ。」(p.237)
つまり、私たちが想像力を欠き陳腐なエンディングを見出そうとしがちであるために、仕方なくその後をお見せしようというのです。なんとも辛辣!

結局、花売り娘のイライザは、上流階級の言葉と身のこなしを習得するものの、言語学者ヒギンズとめでたしめでたしとはならず、ぱっとしないけれどもイライザを愛し、必要とするフレディと結ばれることになります。

果たしてこの後日譚はありなのでしょうか?
ないほうがシンプルなストーリーでよかったのにという方もいれば、後日譚こそがよかったという方もいて、面白いところでした。
個人的には、言葉としおらしいマナーを身につけたら素敵な(?)男性と幸せに(?!)なれるのね、という大衆の幻想を一蹴する後日譚と、創造主であるはずのヒギンズを掌握する強いイライザが大好きです。

大好きといえば、司会の杉岡さんのご提案で登場人物の人気投票をしたところ、票が割れ、人によって支持する人物がまちまちだったのも面白かったです。いざ投票しようとすると、どの人物もなかなか味があって捨てがたく、ショーの人物描写の巧みさを改めて感じることができました。ヒギンズとピカリングがまるでホームズとワトソンのようだというご意見やイライザの父、ドゥーリトルが案外いかしているというご意見、歳を重ねたら共感する人物もまた変わってくるだろうというご意見もありました。

さて、単なるシンデレラストーリーにも見えかねないこの物語で、本当に描かれているものとは何だったのでしょう。
言葉は大事だ、人を自由にする力をもっている、ということを筋として述べながら、言語学者であるヒギンズ自身が言葉を使いこなせていないという皮肉、そして言葉をもつからこその不自由が述べられているように思われます。
「ちゃんとした答えが欲しかったら、つまらないバカな女でいるのをやめることだ。…」
「…あなたとは話ができない。」(p.229, 230)

アイルランドのものを読みたいなぁと思い何となく提案させていただいた本書ですが、面白かったという皆さんの感想を伺いほっとし、また様々な意見が聞けてとても楽しかったです。

この不自由な世の中で、最近、言葉によるコミュニケーションの比重が大きくなっているように思います。言葉は果たして私たちを自由にするのか…?また時々読み直したい作品です。

(by M)
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東京読書会

Author:東京読書会
古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
肩の力を抜いて、真面目な話でなくてかまいません。

まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
古典的名作だけに、読んで損をすることはないでしょう。

参加される方の割合は、初めての方とリピーターの方が半々といったところです。

★「FRaU」(講談社)、『TOKYO BOOK SCENE』(玄光社)、NHK「ラジオ深夜便」、東京ウォーカー(KADOKAWA)で東京読書会が取り上げられました!


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