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読書会レポート 2021年3月

~イプセン『人形の家』~

3月7日の読書会のレポートをお届けします。
この作品は、過去の読書会で特に盛り上がったとのことで選ばれましたが、この日もさまざまな感想が寄せられました。そのうちのほんの一部をお届けします。

【主人公、ノラについて】
冒頭と最後のノラに落差がありすぎると思ったが、ジェーンフォンダが演じるノラには納得させられた。
ノラの決心が、あまりにも急な展開。
ノラの決心は、彼女の幼少期からの生き方を思えば、至極当然の帰結に思える。
ノラは幼く、社会経験を積まなかったからこその楽観性がある。同時に事務能力を鍛えられなかった危うさもある。
二人が向きあった時、感情的な夫に対してノラは冷静。ノラは本当は賢くて純粋で、健気な人だと思う。
家を出たあとのノラを「売春婦になるしかない」という魯迅に対して、寺山修司は「それでいいのではないか」とこたえている。
その場その場の機転がきき、要領の良さがある。利己的な面がある。

【夫、ヘルメルについて】
処世にたけており、芸術的感受性もある。
夫ヘルメルに否定的印象があったので、ラストで夫が捨てられるのがスカッとした。
夫はノラを愛しているのではなく、トロフィーワイフとして必要なだけではないか。
クログスタッドは良い人間へと変わり、ノラはまさに変わる最中。ヘルメルが変われるのかは、かなり疑わしい。
劇書房版のヘルメルの言葉がかなり厳しく、飴と鞭でノラを混乱させているのではないか。

【リンネ夫人について】
ノラと本当に友人なのか、疑わしい。
女性同士のマウンティング会話が怖い。
伴侶にお金を求めるリンネ夫人や、夫に依存するノラなど、女性の課題も描かれている。

【ランク医師について】
父や夫とは違う男性としての存在を示す役割なのではないか。
ノラとの関係は騎士道的、宮廷恋愛の形である。

【物語全体について】
5年前の読書会と読後感が全く違っており、自分も社会も、ジェンダーに関する意識が変化しているのを感じる。
善人と悪人が区分されるのではなく、善悪のグラデーションで描かれている。
このストーリーは、「かみ合わなくなって男女が別れる」という普遍的な形の一つではないか。
展開の速さ、登場人物もはっきり描かれていて、さすがイプセンの代表作と思った。
一読したかぎりでは、女性の軽さ、移り気が目についた。読書そのものより、読書会のディスカッションで、考えさせられるものがあった。

以上のような感想が寄せられました。
特に、秘密を明るみに導くリンネ夫人の行為は、裏切りか救済か、評価が分かれました。
またノラの決心は突然の展開か、当然の帰結か、対照的な感想が出ました。

レポートとしては大層まとまりがないものとなってしまいましたが、それも道理と思っています。
現実社会は、数時間の語り合いで結論を出せるほど単純なものではないし、現実を問う文学も同様だからです。

私自身は、これが4回目の参加となる新参者です。
これまで読書は、一人で完結しているものでした。なので読書会に参加して、思考を言葉にするのも新鮮ですし、周りと比較して自分の傾向性(保守的か反体制的か、この作品では女性への抑圧に敏感か鈍感か)を、俯瞰的に見ることができる気がします。

新しい参加者も、隔てなく受け入れてくださり、感謝しています。
ありがとうございました。

(by Meiyuan)
プロフィール

東京読書会

Author:東京読書会
古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
肩の力を抜いて、真面目な話でなくてかまいません。

まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
古典的名作だけに、読んで損をすることはないでしょう。

参加される方の割合は、初めての方とリピーターの方が半々といったところです。

★「FRaU」(講談社)、『TOKYO BOOK SCENE』(玄光社)、NHK「ラジオ深夜便」、東京ウォーカー(KADOKAWA)で東京読書会が取り上げられました!


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