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読書会レポート 2022年9月

~ 遠藤周作『女の一生 〈1部〉キクの場合』 ~

幕末から明治にかけての時代。徐々に開国へ向けて状況が移り変わりつつありながらも、キリスト教徒がまだ激しい弾圧を受けていた当時の史実に沿いながら、その時代に翻弄されつつ生きぬいた女性の一生と最後まで弾圧に屈しなかった信者たちの姿が色鮮やかに描かれた印象深い作品です。

今回の参加者は全員社会人でしたが、職業はバラバラ。
社会人になってから、このようにバラエティに富んだ方々とプライベートでお話する機会はなかなか無く、とてもワクワクした気持ちになります。

この作品について話し合う中で一番の論点となったのは、「通常ならば耐えられないであろう拷問を受けながらも、清吉たちが信仰を捨てなかったのはなぜか」ということでした。

今回の参加者からは以下のような意見が出ました。

・「信仰を続ければパライソに行ける(=棄教すればパライソに行けない)ということが信者にとっては一種の脅しになっていた。」

・「弾圧を受けることにより、却って絆や信仰心が深まっていった。」

・「当時の暮らしが非常に貧しく厳しかったという背景を鑑みるに、現世がすでに地獄だった。彼らからすれば、信仰を守ってパライソへ行けるのであれば死は怖れるに足らなかった。」

・「集団の信仰になっていたため、棄教すれば村八分にされる。村で生きていくため、家族を守るためには、信仰を続けるしかなかった。」

その他に興味深かった論点は、伊藤がキリスト教に改宗後、清吉に過去の過ちを告白し謝る描写についての要否です。

「伊藤には最後まで悪人でい続けてほしかった。最後の描写は不要だと感じた。」という意見や、「ごくごく一般的な弱い男である伊藤の悪人になりきれない葛藤や、そのような存在だからこそ神に愛される存在であるということを示すためにやはりあの描写は必要だった」という意見が出ました。

また、テーマや登場人物に共通項がみられることから、『沈黙』との対比について、各々の見解を示し合いました。

会の最後の方では、青森にあるキリストの墓や、キリスト祭、文京区の切支丹坂や切支丹屋敷も話題にのぼりました。


読書会に参加し、他の方々の視点や知識を共有いただくことで、毎回新たな学びを得られます。この「知らなかったことを知る」ということ、そしてそのことについて更に自分で調べたいという好奇心は日常に彩りを与えてくれます。

また、課題本があることにより読書をする契機を与えられ、さらにその作品を他の方々と語り合うことによって、自分の中で特別な作品となっていくプロセスは非常に興味深くかけがえのないものだと感じます。

今回もありがとうございました!
(by A)
プロフィール

東京読書会

Author:東京読書会
古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
肩の力を抜いて、真面目な話でなくてかまいません。

まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
古典的名作だけに、読んで損をすることはないでしょう。

参加される方の割合は、初めての方とリピーターの方が半々といったところです。

★「FRaU」(講談社)、『TOKYO BOOK SCENE』(玄光社)、NHK「ラジオ深夜便」、東京ウォーカー(KADOKAWA)で東京読書会が取り上げられました!


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