
読書会レポート 2019年6月

~サン=テグジュペリ『夜間飛行』~
今回の課題本として、サン=テグジュペリ『夜間飛行』を選ばせて頂きました。
私の大好きな小説で、無駄がなくかつ情景豊かな文体と、テグジュペリ自身が飛行士であった経験が存分に発揮されている、迫力ある飛行描写とが、本作の好きな理由です。作品の分量もそれほど長くないため、読書会の課題本向きではないかと思ったことも、選出理由の一つです。
本書について様々な意見・感想が飛び交いました。例えば以下のようなものです。
構成や描写について、
・構成がよく練られていて、隙がない。感情描写が抑えられている。あえて書かなかった部分というものがたくさんある小説だと思う。
・飛行機が墜落する描写がとても現実的。現実の描写と詩的な描写とのコントラストが印象的。
・登場人物たちが内面を出さないからこそ、逆に一人ひとりの戦っている感じが切実に伝わる。
・冒頭は映画っぽいシーンで、ゆったりとした時間の流れるよう描写だった。この雰囲気のまま続くのかと思ったら、そこは裏切られた。後半になり時間の流れが急速かつ不安定になる。
飛行士たちについて、
・なぜこの小説に登場するパイロットたちは、命の危険があるにも関わらず飛行機に乗り続けたのだろうか? 空を飛ぶことに駆り立てられるパイロットの気持ちは一体どんな感じなのだろうか?たとえ生きて戻ることができなかったとしても、パイロットにとってはそれが本望だったのだろうか?
・ファビアンは、きっと空に憧れる人なのだろう。飛んでいる間、エクスタシーを感じているかもしれない。
・16章の、ファビアンが見たあまりにも美しい光景が、まるで現実の出来事ではない、夢の中の世界のようである。あまりに綺麗な描写なので、このシーンが読めただけでもこの小説を読めで良かったと思う。
・本作はテグジュペリの自伝的小説とも思える。テグジュペリのように、空を飛ぶことに対して取り憑かれた人でないとわからない世界というものがあるのではないだろうか?
リヴィエールという人物について、
・リヴィエールという人物の人どなりが掴めない。何が起きても事業を続ける姿勢には、この人は事業を続けないと死んでしまうのではないかとも思える。
・リヴィエールの仕事へのひたむきさとストイックさが気になった。リヴィエールの「人生に意味があるかわからない」という台詞から、この人はここまで自分を追い込んでいたのだと察せられ、凄い人だと感じられた。
・リヴィエールの「優しさを表に出さない」ところが印象深かった。リヴィエールは必ずしも自分が正しいことをしているとは思っていない。だが、その迷いを人前で出そうとはしない。
・リヴィエールのやり方には、共感することはできない。ただ、このような仕事一筋の人物は現実にいると思うし、こういう人の心情をよく捉えていると思う。綺麗事を抜きにしてえも事業を前に進める、という迫力に満ちた態度がすごい。
フロンティアとしての航空事業について、
・星の王子さまとは異なり、これはマッチョな世界の小説である。この時代は空の世界がフロンティアで、今で言うところの宇宙開発だろう。宇宙開発でもたくさんの人が犠牲になっていた。逆に言うとこれだけの犠牲を出しても前に進むような強い意志がない限り、フロンティア事業は達成できないものだろうか。
・飛行事業の黎明期にあったから、リヴィエールはあれだけ厳しい態度をとっていたのだろう。自然災害による事故も人間のせいにして処罰していた。このような一見すると理不尽なことも、このフロンティア事業を続けるために必要なことだったのかもしれない。
・個人の幸せを二の次にしてまで事業の発展を目指そうとしている。その力は巨大である。
・仕事の黎明期・過渡期というものは、リヴィエールのように、トップダウンのやり方で強引に前に進めたほうがうまくいくことが多いのではないだろうか。
女性の視点について、
・飛行士の奥さんの登場により、作品に女性の視点が入ることで、作品の人間性が増していた。飛行士の奥さんの「見送る立場」と言うものが作品に描かれているところが素敵。
・リヴィエールとファビアンの奥さんの対立は、今風に言うとワーク・ライフ・バランスの象徴とも言える。正反対の価値観のぶつかり合いである。
様々な人同士で、作品に対する思いをぶつけ合うという有意義な時間を、今回も過ごすごとができました。
(By Igm)
今回の課題本として、サン=テグジュペリ『夜間飛行』を選ばせて頂きました。
私の大好きな小説で、無駄がなくかつ情景豊かな文体と、テグジュペリ自身が飛行士であった経験が存分に発揮されている、迫力ある飛行描写とが、本作の好きな理由です。作品の分量もそれほど長くないため、読書会の課題本向きではないかと思ったことも、選出理由の一つです。
本書について様々な意見・感想が飛び交いました。例えば以下のようなものです。
構成や描写について、
・構成がよく練られていて、隙がない。感情描写が抑えられている。あえて書かなかった部分というものがたくさんある小説だと思う。
・飛行機が墜落する描写がとても現実的。現実の描写と詩的な描写とのコントラストが印象的。
・登場人物たちが内面を出さないからこそ、逆に一人ひとりの戦っている感じが切実に伝わる。
・冒頭は映画っぽいシーンで、ゆったりとした時間の流れるよう描写だった。この雰囲気のまま続くのかと思ったら、そこは裏切られた。後半になり時間の流れが急速かつ不安定になる。
飛行士たちについて、
・なぜこの小説に登場するパイロットたちは、命の危険があるにも関わらず飛行機に乗り続けたのだろうか? 空を飛ぶことに駆り立てられるパイロットの気持ちは一体どんな感じなのだろうか?たとえ生きて戻ることができなかったとしても、パイロットにとってはそれが本望だったのだろうか?
・ファビアンは、きっと空に憧れる人なのだろう。飛んでいる間、エクスタシーを感じているかもしれない。
・16章の、ファビアンが見たあまりにも美しい光景が、まるで現実の出来事ではない、夢の中の世界のようである。あまりに綺麗な描写なので、このシーンが読めただけでもこの小説を読めで良かったと思う。
・本作はテグジュペリの自伝的小説とも思える。テグジュペリのように、空を飛ぶことに対して取り憑かれた人でないとわからない世界というものがあるのではないだろうか?
リヴィエールという人物について、
・リヴィエールという人物の人どなりが掴めない。何が起きても事業を続ける姿勢には、この人は事業を続けないと死んでしまうのではないかとも思える。
・リヴィエールの仕事へのひたむきさとストイックさが気になった。リヴィエールの「人生に意味があるかわからない」という台詞から、この人はここまで自分を追い込んでいたのだと察せられ、凄い人だと感じられた。
・リヴィエールの「優しさを表に出さない」ところが印象深かった。リヴィエールは必ずしも自分が正しいことをしているとは思っていない。だが、その迷いを人前で出そうとはしない。
・リヴィエールのやり方には、共感することはできない。ただ、このような仕事一筋の人物は現実にいると思うし、こういう人の心情をよく捉えていると思う。綺麗事を抜きにしてえも事業を前に進める、という迫力に満ちた態度がすごい。
フロンティアとしての航空事業について、
・星の王子さまとは異なり、これはマッチョな世界の小説である。この時代は空の世界がフロンティアで、今で言うところの宇宙開発だろう。宇宙開発でもたくさんの人が犠牲になっていた。逆に言うとこれだけの犠牲を出しても前に進むような強い意志がない限り、フロンティア事業は達成できないものだろうか。
・飛行事業の黎明期にあったから、リヴィエールはあれだけ厳しい態度をとっていたのだろう。自然災害による事故も人間のせいにして処罰していた。このような一見すると理不尽なことも、このフロンティア事業を続けるために必要なことだったのかもしれない。
・個人の幸せを二の次にしてまで事業の発展を目指そうとしている。その力は巨大である。
・仕事の黎明期・過渡期というものは、リヴィエールのように、トップダウンのやり方で強引に前に進めたほうがうまくいくことが多いのではないだろうか。
女性の視点について、
・飛行士の奥さんの登場により、作品に女性の視点が入ることで、作品の人間性が増していた。飛行士の奥さんの「見送る立場」と言うものが作品に描かれているところが素敵。
・リヴィエールとファビアンの奥さんの対立は、今風に言うとワーク・ライフ・バランスの象徴とも言える。正反対の価値観のぶつかり合いである。
様々な人同士で、作品に対する思いをぶつけ合うという有意義な時間を、今回も過ごすごとができました。
(By Igm)
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