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読書会レポート 2019年9月

~石川達三『青春の蹉跌』~ 

 あまりにも暗く、打算に満ちた青春である。
 明晰な頭脳と恵まれた容姿を持ちながらも、人との関わりの中で破綻する栄達への階段・・・。そして、遂には実社会への道をも自ら閉ざす主人公の物語。

 作中の人物達から語られる、野心に満ち、敵意に満ち、偏った理屈に満ちた言葉の連なりは、時に苦しくなる程あからさまだ。だが、彼らから放たれる剥き出しの言葉には、単なる身勝手な若者の耳障りな物言いとしては片付けられない本音や真実があるようにも思われ、課題本に推薦した。

 主人公の生き方に関する賛否も大きく分かれ、

・誰も助けてくれない時代だからこそのメンタリティー
・生きるのに必死なだけで、悪人ではない
・父親が生きていたら、状況は全く違っていたはず
・近隣の火事に涙を流す主人公 → やはり彼は普通の人なのだ
・モヤモヤするが、こういったメンタリティーの人は意外といる
・若くして司法試験に受かれば、生意気になって当然

 と、擁護する声が聞かれた一方、

・全く、同情の余地が無い
・法律家を目指すなら、人の気持が分からないといけないのでは?
・子供がこんな風に育ったら、どうしよう・・・

 との意見も挙がった。

 そして、賢いはずの主人公の謎の行動についても触れられた。

・殺人が衝動的すぎる
・死体の始末もされておらず残念
・自分でなんとかしなくては・・という意識が自分の首を締めたのでは?

 更に、

・主人公の成長を見る前に話が終わってしまったことが残念
・学生である主人公に、ビールをせびる従兄の生き様は如何なものか
・主人公の母親に共感を覚える

 など、今回も視点は様々であった。

 また、時代の空気についても多く語られた。
 現在とはレベルが違う貧困が存在したという時代。そして、登場人物が青春時代を捧げ、その後の人生を大きく変えた学生運動。初版から約半世紀を経た今となっては、薄れつつある過去の史実だが、参加者から寄せられる他の作品から知り得た時代背景や作中描写というピースを繋ぎ合わせていく内に、少しずつ補完され見えてくる景色がある。

 月に一度、会を通じて出逢う、長く読み継がれる一冊の本。
 その作品を、現在の社会に照らし、今を生きる私達の感覚や尺度を持って話し合うことは、大変興味深いと思う。

(by C.K.)
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Author:東京読書会
古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
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まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
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