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読書会レポート 2022年1月

~夏目漱石『二百十日・野分』~

 漱石の作品にしては、いくぶんマイナーな作品です。
「二百十日」とは立春から二百十日たった九月一日のことを意味し、「野分」とはその頃に吹く嵐、つまり台風を指すようです。

 まずは、小ネタから。
 『二百十日』の中で、しきりに登場人物が「うどん」のことを貶しているので、「漱石はそんなにうどんが嫌いだったのだろうか」という話が出ました。
『吾輩は猫である』の中にも「うどんは馬子が食うものだ」という一節があるので、江戸っ子だった漱石は蕎麦のほうが好きだったようです。

 また『二百十日』の中の、阿蘇の女中に「玉子を半熟で持ってきてくれ」と言ったが話が通じず、女中が持ってきたのは四つの卵で、そのうちの二個が生卵で、残りの二個が完熟卵だったという話が面白かったです。
四つのうちの半分を茹でてきたから「半熟」というわけです。

『野分』では、主人公の白井道也は教師の職に決して就こうとはせず、貧しい文学者であり続けようとします。
これに対しては、奥さんがかわいそうだという声が多くあがりました。
しかし、漱石は文学者が金を儲けることには否定的で、このような頑なな道也の姿を肯定的に描いていると思いました。

 ラストシーンでは、道也の弟子の高柳周作が、自分の肺病の治療のために手に入れた百円という大金を、そのまま道也に渡してしまいます。
 これで周作は肺病の治療ができなくなったわけです。
 これに対しては、もちろん「なんという愚かなことを!」という声も上がりましたが、「感動した」「美しい自己犠牲ですよね」という意見もありました。

 私個人としては、「……である」と続いていた地の文が、突然「……じゃ」とまるで時代劇のような口調になったり、「しるくはっと」とひらがなで書かれていたりしたのが面白かったです。

 漱石はこれらの作品を驚くほど短時間で書き上げたそうですが、こういうのがそのまま活字になってしまうのは、おおらかな時代だったんだなと思いました。

(by Der Wanderer)
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