
読書会レポート 2022年6月


~有吉佐和子『悪女について』~
富小路公子という一人の女性について、二十七人の人が現れて語り出します。
ただし、公子本人は一度も語りません。それぞれの証言者の言うことが食い違い、いったいどこに真実があるのか、富小路公子という人は何者だったのか――という小説です。
まっさきに会で話題になったのは、公子の死が自殺なのか他殺なのか事故死なのか、という疑問です。これに関する証言が、互いに矛盾しあっているからです。
参加者の意見は、自殺と他殺と事故死でほぼ三分されていました。
・自殺説……自分のやっていることを悔いて自ら命を絶ったのだろう。
・他殺説……いろいろ人をだましたり、偽装結婚などしていたので、公子を恨んでいた人は多かったのでは。
・事故死説……最後に次男の義輝が事故死だと言っている。この小説での最後の証言なので、これが真実ではないか。
私は事故死説を取りました。
義輝の証言は「本当だよォ」で終わり、これが小説全体の最後の言葉でもあるので、この言葉をあえて最後に持ってきたのは、義彦の証言が真実だと著者がほのめかしているのではないか、と思ったからです。
もう一つ問題になったのは、「公子の母親は本当に八百屋のタネなのか」ということです。
公子自身は自分を公家のご落胤だと吹聴していましたが、彼女の強烈なコンプレックスから見て、おそらくタネが実母であり、それを恥じて隠していたのだろうという意見が多かったです。
「公子にお近づきになりたいか」という質問については、イエスと答えた人はほぼいませんでした。
小説の中では魅力的に描かれ、何人かの証言者からは絶賛されているのですが、実際にお近づきになると、災厄に巻き込まれそうで怖いようです。
「やはり真実は一つではない」という意見も聞かれました。
公子に対する証言が、これほど食い違うからです。ある人からは詐欺師に、しかしある人からは聖母にも見えます。
いろいろな伏線が仕組まれている小説なのですが、読書会でいろんな人の意見を聞くことによって、より重層的にこの小説を知ることができてよかったです。
(by Auf der Reise)
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