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第18回 読書会レポート

1月13日の読書会のテーマは、ドストエフスキーのギャンブル小説『賭博者』でした。

ロシア人の青年がルーレットの魔力に憑りつかれ、破滅していく姿が描かれています。ドストエフスキー自身がギャンブル中毒だったので、この小説は作者の体験に裏打ちされたものだと言えます。

前に『カイジ』(福本伸行)というギャンブル漫画を読み、ギャンブルの陥穽に堕ちていく人間の心理に非常に興味を持ったので、この作品を選びました。

まず会の初めに、
「この中に『賭博者』はいますか?」
とみなさんに聞いてみました。
「ロト6を時々趣味で買っている」
という方はいましたが、残念ながら本当に賭博に魅せられた、破滅型のギャンブラーはいなかったようです。

そして、話は次のように膨らんでいきました。
「最初は登場人物が妙に多くて難しかった。でも、ギャンブル狂のおばあさんが出てきた辺りからストーリーが加速していき、一気に読んでしまいました」
「小説の舞台がルーレテンブルグ(ルーレットの街)ということになってるじゃないですか。そのまんまのネーミングですよね。ドストエフスキーはなかなかユーモアがある」
「文章がかなり長く、まどろっこしいでしょう。これは口述筆記で書いたかららしいです。ドストエフスキーはギャンブルで負けて莫大な借金を作り、それを返すために無理やり短時間で仕上げたのがこの作品なんですよ」
「でも、もともと文学というのは歌であり、詩じゃないですか。文字を使わず、音だけで作品を創りあげるというのは、とても自然なことだと思うな」
「ギャンブルの魔力、滅びていく悦び、快感を見事に描き出してますね」
「主人公に共感した。バチカンの偉そうな司教をからかったり、慇懃で堅苦しいドイツの男爵にわざとフランス語で話しかけて騒ぎを起こしたり……。彼はパンクなんですよね。権威、形式、常識などといったものを引っ繰り返すことに喜びを覚えている。単なるギャンブラーではないですね」
「恋愛小説としても読めますね。自己中心的で男を跪かせて喜んでいるヒロインのポリーナは、『初恋』(ツルゲーネフ)のヒロインであるジナイーダに似てますね。当時のヨーロッパの、ある種の女性の典型なのでしょうか」
「主人公はギャンブル狂だが、お金には恐ろしいほど執着がない。やはりギャンブルの魅力は利得ではなく、熱狂や陶酔にあるんだろうな」

この小説では、ギャンブルで一攫千金を狙う怠け者のロシア人と、勤勉で確実に財産を積み上げていく(しかし浪費はしない)禁欲的なドイツ人が対比的に描かれています。
参加者のみなさんに、
「ロシア人とドイツ人のどちらに共感しますか?」
と聞いたところ、意外にもほぼ半々に分かれました。
「勤勉な日本人はドイツ人に共感するはず」という僕の勝手な思い込みとは違いました。

ドイツ人とロシア人の性格の違いは、アリとキリギリスにも似ています。
ろくに働かず、歌ばかり歌っているキリギリス。しかし、
「アリはキリギリスの歌によって心を慰められたことはなかっただろうか?」
と、ある歌手が問いかけていたのを思い出しました。
ドストエフスキーはロシア人を自虐的に描いていますが、そんなロシア人にもちゃんと存在意義はある、ということを言いたかったような気がします。

(by 杉岡幸徳)
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