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第27回 読書会レポート

10月6日の読書会のテーマはシェイクスピアの『ハムレット』でした。

シェイクスピア悲劇の最高傑作とされる高名な作品ですが、その一方で、ノーベル文学賞を受賞した詩人T.S.エリオットは、「ハムレットはあまりに支離滅裂なので失敗作だ」と断言しています。

また、夏目漱石も『吾輩は猫である』の中で、「たまには股倉からハムレットを見て、君こりゃ駄目だよくらいに云う者がないと、文界も進歩しない」と言っています。

ですから、『ハムレット』だからといって無暗に有難がらずに、フラットな気分で読みましょうといった話を初めにしました。

交わされたのはこんな言葉たちでした。

「以前、ハムレットを真田広之が、オフィーリアを松たか子が演じた舞台を観ました。体の動きがとてもしなやかで、よかったですよ」
「お家に古めかしい坪内逍遥訳の『ハムレット』がありましたよ」
「ハムレットは理屈っぽい男だけど、嫌味じゃないね」
「彼は優柔不断で、なかなか復讐を実行に移さないでしょう。ウジウジ悩みながら、何一つ行動しない男が格好いい、と考えられた時代があったんですよ。ロマン派の時代とか」
「シェイクスピアでは『マクベス』のほうが読みやすく、面白かったね。ハムレットにはちょっと共感できない」
「ハムレットには共感できないけれど、友人のホレイショーは普通っぽくていい。『ベルサイユのばら』のアンドレみたい。ホレイショーがしっかりしているから、ハムレットが好き勝手に行動できるんだよね」
「そうかな。ホレイショーにはまったく魅力を感じない。ハムレットにとっては便利な男だと思うけど。彼は最後までハムレットに付き添って裏切らないけど、裏切るにも才能と度胸が必要なんだよね。彼にはそれがなかっただけじゃないか」
「ヒロインのオフィーリアは完全に父親のマリオネットで、自分の意志をまったく見せないよね。父親の命令に従ってハムレットから来たラブレターを見せたり、プレゼントをハムレットに返してしまったり。こんなひどい扱いを受けたら、そりゃハムレットも狂うと思うよ」

『ハムレット』の最大の謎は、「どうしてハムレットは逡巡するばかりで復讐(王の暗殺)をいつまでたっても実行しないのか」という点にあります。このことについても話し合ってみました。

「よくわからないけど、ためらい迷うハムレットが魅力的」
「簡単に復讐してしまうと、劇がそこで終わってしまうからでは?」
「当時の復讐劇は、とにかくいろんな理由をつけて復讐を引き延ばすのが一つの様式だったらしいよ」
「この作品には種本があるんですよ。その本では、主人公がなかなか復讐を完遂しない。シェイクスピアは種本に従っただけでは」

『ハムレット』は「文学のスフィンクス」と呼ばれるほど支離滅裂で謎に満ち、主人公ハムレットの性格は矛盾によって引き裂かれています。
だからこそT.S.エリオットは「失敗作だ」と断じたのですが、もしこれが何の破綻も見られない完璧な傑作だったら、誰も見向きもしなかったのではないかと思われます。
矛盾と謎に満ちているからこそ、今なお私たちを魅了し、誘惑し続けるのではないでしょうか。

(by 杉岡幸徳)




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