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第32回 読書会レポート

~アゴタ・クリストフ 「悪童日記」~


-この本を推薦した理由

とにかく面白かったから(鮮烈なラスト!)。人から薦められて読み始めて、読んだ後に私も人に薦めている。誰かに面白さを伝えたくなる小説なのかもしれない。

-文体と構成
「悪童日記」はアゴタ・クリストフの処女作で、独特のリズム感、直截的な表現は、彼女がフランス語に不慣れなための苦肉の策であると読書会で知った。戦時下の緊張感、子どもが描いたという設定と、作者の現実がリンクしている。どこまで自覚的だったのだろうか?ソチオリンピックでリプニツカヤが若さを逆手に取って『シンドラーのリスト』の少女を演じ、評価を得たことと重なった。エピソードの豊かな物語性とは対照的に、ラストにつながる説明が一切ないところが見事。

-母親の死

“ぼくら“は、それが「絶対に必要」ならば叶えるために最大限の努力をする。私は、その価値観が、他人にすがって生きる母親と相いれないために祖母の元で生きることを選ばせた、また、赤ん坊の出現が嫌悪感を引き起こしたのであろうと思っていた。読書会で、今後の情勢から将校と一緒にいることが有利に働かないためではないかという意見が出て、いかにも彼ららしい功利的な(合理的な)視点だと思った。また、爆発は彼らの仕業ではないかという意見には考えさせられた(あるいはそうではないか?)。

-“ぼくら”について

読書会で、アスペルガー、独善的、憎たらしいという言及があった。私はそれよりも、思いやりのない言葉に震えたり、死体の山に嘔吐したり、髪に受けた愛撫や母親の写真を捨てることができない様子が印象に残った。また、<兎っ子>に「よい子だ」と言ったり、嘔吐の理由について嘘をついたり、 従姉に母親の死を伝えなかったり、という彼らの言動からは、相手へのいたわりを感じた。

−全体を通して

読書会で、ヒーロー小説、ピカレスク小説という声があったが、上記のような繊細さを持ちながら、厳しい現実に押しつぶされず、淡々と労働し、目標を持って練習に励むという精神の健全さを保っていることが、最も超人的な、ありえない設定であるように感じた。自分だったら同じ状況でどうするか考えさせられるという意味で、この小説は“自己啓発書”と言えるかもしれない。もし戦争がなかったら、彼らはどんな人間になり、どんな人生を送ったのだろうか。また、ヨーロッパの歴史について知っていたらもっと楽しめるように思った。

(原)
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