第37回読書会レポート

~『江戸川乱歩傑作選』~

 この本は中学の頃に始めて読んで、その後何度か読み直しました。特に乱歩の世界を偏愛しているというわけではないのですが、わかりやすくて読書会向きだろうと思って選んでみました。自分でももう一度読んでみたかったというのもあります。
 収録されている作品は、「二銭銅貨」「二癈人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」です。

 私が一番驚いたのが、一番人気(特に女性に)があった作品が、『芋虫』だったということです。
 戦争で四肢を失った軍人を、妻が玩具にしていたぶるという話ですが、私としては描写の凄惨さが読むに耐えず、これだけは読書会には不向きかなあと思っていました。特に、淫靡に描かれた性描写は、中学生の時には理解できませんでした。
 ところが読書会では、「女性の姿がよく書けている」「人間の欲望を忠実に描いている」と多くの共感の声が寄せられたのです。

 また、意外な指摘も出されました(私が出したのですが)。
 『屋根裏の散歩者』は、推理小説として重大な欠陥があり、明智小五郎は明らかな推理ミスを犯している、というのです。
 主人公の郷田三郎は、下宿屋の屋根裏を夜な夜な徘徊し、天井の節穴から、モルヒネを下で寝ている男の口の中に垂らし、殺害しようとします。
 この時、郷田は「0.×g」のモルヒネを持っていたと乱歩は書いています。
 しかし、実はモルヒネの致死量は6-25gで、「0.×g」で人を殺すことはできないのです。
 では、モルヒネを垂らした後、寝ていた男が大きないびきをかき、その後呼吸が止まったという描写は何か。
 これは実は、典型的な「睡眠時無呼吸症候群」の症状なのです。この病気は、いびきをかくのが特徴です。
 つまり、この時、下で寝ていた男は死んでいなかった。郷田は、男の息が止まったのを「死んだ」と勘違いして、安心して自室に戻ってしまっただけなのです。
 しかし次の日、下で寝ていた男は死体となって発見されます。
 つまり、犯人は他にいるのです。それはいったい誰なのか?
 この小説には大して登場人物がいないので、結局これは「郷田を殺人犯だとして追求した明智小五郎しか考えられない」という結論に至りました。探偵が実は犯人だったというのは、推理小説に時々あるパターンです。

 余りにも有名な探偵・明智小五郎はこの本の数編の小説の中に出てきますが、ここで私は参加者の方にお聞きしてみました。
「明智小五郎と犯人のどちらに共感しますか?」
 すると、明智よりも犯人に共感する、という方が二倍以上多かったのです。
「明智が犯人を追求するやり方が陰湿で、性格が悪い」「犯人がなんか可哀そう」というのが主な理由でした。この結果は、私にとってはかなり衝撃的でした。世の中では、犯罪者が大人気のようです。

 このように、多様な意見に触れ、人々の姿を見ることができるのが、この読書会の魅力でしょうか。

(by 杉岡幸徳)
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