読書会レポート 2017年6月

~三島由紀夫『潮騒』~

 ギリシャ旅行後、三島29歳の時の作品。美しい自然に囲まれた文明の届かない島で、若く美しい恋人たちが苦難を乗り越え結ばれるというストーリー。読後の印象は、明るい、清々しい、爽やか、健康的、シンプル、単純、若い、希望、未来、美しい、綺麗、神話的、おとぎ話的、話が解りやすい、読みやすいといった単語で語られた。「美しい、綺麗」以外、三島作品を形容する言葉としてあまり使われない。いつもの三島の作品とは違うという感想を持った参加者が多かったのだ。

 それでは、この作品の特異性とは何なのか?まず、主人公の2人が単純であまり考えない。三島作品の主人公たちは普通複雑な内面を抱え、その心理描写にページが割かれている。しかしこの2人は迷わずただ自分であること、そこにいることに満足している。三島は彼らの内面の代わりに肉体を描写する。新治も初江も美しいが、その自覚すらない。精神性の排除により、この主人公たちは感情移入という意味で読者からの共感を得にくく、現実から乖離していく。おとぎ話のようだというのもこれが一因なのでは?

 人物の心理描写に比べ、自然の描写が多いという指摘があったが、これも意識的に精神性を排除した結果だろう。精神より肉体が描かれる人物と併せて、風景の描写が増えることで作品がより視覚的になる。何度も映画化されている所以か。

 さらにこの作品は文章も違う。三島のいつもの華麗な文体は影を潜め、短い簡潔な文章で構成されている。だから読みやすい。装飾を取り除いてなお美しい文章は、ギリシャ時代の建造物を彷彿とさせる。単純なものの美しさが文体でも表現されている。

 作品中比較的きちんと内面が描かれている千代子に、参加者、特に女性の参加者から多く共感の声が聞かれた。読書会に参加するのは、確かに初江ではなく千代子のような女の子なのだ。安夫はこの作品中唯一の悪党だが、この島社会ではそこまでの悪党でもなく、むしろ滑稽な役回りを与えられているとう意見は共感を得ていた。重要場面として特に話し合われたのがラストシーン。これはハッピーエンドなのか?という問いには様々な解釈があるだろう。ただこの場面に読者がはっとするのは確かで、そのまま夢散してしまいそうな物語を、最期に意外性という錨で留めた感がある。そしてもう一つ、嵐の海に飛び込む仕事に新治が志願する場面。そのとき何故新治は何故微笑んだのか?

 美しい自然、善い人しかいない島に、理想化し過ぎているという意見もあった。ギリシャ旅行から帰った三島は、この作品の構想を胸に、舞台とすべき風光明媚な島を日本全国から探してもらったそうだ。この島を悪いもので溢れた都会の文明から隔絶された理想郷として描いたのは事実だろう。伊勢湾の入口に浮かぶ島だ、読者は自然と日本の古代神話を連想する。温暖な気候、太陽と海、自然の恵み、善い人々、若く美しい恋人たち、神の恩寵、恋の成就。これを材料に三島が試みたのは、単純なものの美しさ、精神を凌駕する肉体を描くことだった。主人公新治は、都会に生きるインテリの三島自身のアンチテーゼ、もしくは憧れた理想の姿だったのだろうか。
(by M.K.)

読書会レポート 2017年5月

~『嵐が丘』 エミリ-・ブロンテ~

エミリ-・ブロンテの唯一の長編小説。
「世界の三大悲劇」や「世界の十大小説のひとつ」と評されている。

話の舞台は、1765年~1802年のイギリス ヨークシャー。荒涼とした自然に佇む“嵐が丘”の主人に拾われたジプシーの子ヒースクリフとその家の娘キャサリンとの親から子へ2代にわたる愛憎劇。キャサリンの「私はヒースクリフ」というセリフが有名。


強烈なキャラクターが多いせいか、その行動について疑問に思う箇所が多く、これは何故?という疑問に対して、みんなでそれぞれの意見を述べる感じで進行していきました。

Q女性のこころを揺さぶる部分はどこか?
⇒女性は自分に一途な人と王子様のような人との両天秤のシチュエーションが好き。
Qヒースクリフは魅力的なのか?
⇒悪魔的だが、キャサリンに一途なところが良い。墓を暴くシーンや、キャサリンの娘に無関心なところが良い。
Q何故キャサリン(1代目)はエドガーと結婚したのか?またはエドガーは何故キャサリンと?
⇒性格的に自分にないものを持っていたので、そこに惹かれた。
Q何故キャサリン(2代目)はリントンを好きになったのか?
⇒ヘアトンとの2択だったから、他に男がいなかった。
Q何故ヒースクリフは復讐する気がなくなったのか?
⇒明確な答えはなし。ただし作中の「哀れな結末だよ」というヒースクリフのセリフに凝縮されているのではないか。
Q嵐が丘の主人は何故、ジプシーの子を拾ってきたのか?
⇒新しい血を入れるため。結果的に、アーンショ-家の財産はヒースクリフによって守られたから、先見の明があったのでは。
Qキャサリンとヒースクリフが結婚したら幸せになったか?
⇒幸せになる 3票 理由:ヒースクリフはいつでもキャサリンを一番に考えているから
 不幸せになる 5票 理由:似たもの同士だから合わない。キャサリンは気性が激しすぎて結婚に向かない。

その他、語り部のネリーについて、色々な意見が多かったです。

・ネリーが不気味で、いつも余計なことをする。実はヒンドリーが好きなのでは。
 (別の方は、いやヒースクリフが好きなのでは、という意見もあり)
・すべてがネリーの主観で語られているから、本当の所は不明。
・すでにネリーとロックウッドのキャサリンに対する描写が異なる。
・キャサリンとヒースクリフの抱擁のシーンをずっと見ていたくだりが不自然etc.

私は(あまり疑り深くないのか)語り部だからそんなもんかと読んでいましたが、
指摘されると、確かに!と思い、あらためて他者との意見交換って面白いと感じました。


最後に、登場人物の人気投票の結果です(12人中、複数挙手可)
キャサリン(1代目) 5人/理由:可愛いから
キャサリン(2代目) 6人/理由:可愛いから
ヒースクリフ 4人/理由:自己実現してるから
エドガー 1人
ヘアトン 7人/理由:キャサリンに一途で、最後に幸せになったから
リントン・イザベラ・ジョーゼフ・ネリー・リントン 0人

以上です。
有意義で楽しい時間を過ごすことができました。
(by S.K)

読書会レポート 2017年4月

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~ドストエフスキー 「悪霊」~

 私は以前から「悪霊」が大好きでしたが、長くてテーマの暗い本なので周りの友人に勧めても読む人がおりませんでした。今回、この本を課題本として選んでから、皆さんが読書会に参加してくれるのだろうかと心配しましたが、本当に多くの方が本を読んで参加してくれました。

 皆で話し合う中で、意外にも「面白い部分が多い」という感想が挙がりました。この作品自体は組織の結束を固めるための殺人や何人かの自殺などテーマは重いのですが、その重いテーマを書きながら面白さを感じさせるというこの本の魅力は、一人では発見できなかったことだと思います。そこで今回は皆さんの発見してくれた面白い部分を書かせてもらいます。

 まずは「人が面白い」ということです。初めに出てくるステパン氏はおじいさんであるのに子供っぽいのですが、なぜか憎めないコミカルなキャラクターです。そのステパン氏が支配的なワルワーラ夫人と友情以上のつながりを持ってくっついたり離れたり、嫉妬し合ったりします。

 キリーロフもとても面白い人物です。自分が神になるために自殺すると言っている人なのですが、人間らしい側面もあって、シャートフの(元)妻が出産する時、シャートフに助産婦を呼ぶように頼まれるのですが「何なら僕が・・」といいなぜか自分でお産の手助けをしようとします。(キリーロフの職業は建設技師)その後、そのシャートフは殺され、ピョートルがキリーロフを殺人犯に仕立て上げようとします。しかし、ピョートルがいよいよ自殺してほしいというのに、なかなか自殺しないのです。ピョートルが自殺したかどうかを確かめるためキリーロフの部屋を覗いてみると、キリーロフは吼えたけりながら飛びかかってきたり、部屋の壁と戸棚の凹みに身動きせずおさまっていたり、さらにピョートルに襲いかかり指にかみつくなどします。本当に奇妙な人物なのですが、とても爆発力があり魅力的に描かれています。

 また「面白いイベント」も起こります。まずはヴィルギンスキーの家になぜかたくさんの人たちが集まり、とりとめのない話を各々していると、誰かが「これは会議なのか?」と言い出します。そもそも会議をしているのかどうかを話し合った後、「それにしても会議ってなんだ?」と誰かが言いだしたりと、実に滅茶苦茶なのです。集まったはいいけれど、ピョートルもあくびをしながら「何も発表することはない」と言い切り、本当に一体何のために集まったのだろうと思わせる集会です。

さらに新知事レンプケ氏の妻であるユリア夫人が企画した祭りがとても面白そうで参加したいという感想がありました。一部は文学の部・「文学カドリール」で、二部は終夜の舞踏会らしいのですが、初めの文学の部で既に祭りが壊れるのです。ビュッフェ目当ての「どこの馬の骨とも知れないような連中」が入場料を支払わずに多数入場してしまい、混乱を極めます。混乱の中、文学の部でのカルマジーノフ氏の朗読の際には、くどくどと述べるカルマジーノフ氏に語り手である「私」が突然ツッコミを入れだすシーンがあり、そこも思わず笑ってしまいます。とうとう追い詰められたレンプケ氏が叫びだしたと思いきや、放火と思われる火事も起こる、ユリア夫人は気絶し、祭りは幕を閉じます。

 この読書会を機に、「悪霊」の面白い所をさらに見つけていく会を開こうという動きもあり、いずれ開催されると思われます。

(by N.I.)

読書会レポート 2017年3月

~エンデ『モモ』~

 モモという不思議な少女が、人間から時間を盗んで搾取する「時間どろぼう」と戦い、最後には打ち勝ち、世界に平和と笑顔を取り戻す――という物語です。
 時間とは何か、時間は人間にとってどういう意味があるのか、といった問いを投げかけています。

 もともと児童向きの小説でもあるため、子供の頃に読んだという人も何人かいました。しかし、読後感はその頃とはまったく違う、とのことでした。

「子供の頃って、時間はただ流れゆくものでした。大人になったら、時間は『持っている』という感覚になる。だから、時間どろぼうは許せませんね」
「勧善懲悪の物語ですよね。時間どろぼうがひたすら悪者になっているという。このほうが子供にはわかりやすいのかな。時間どろぼうにも妻子がいて、住宅ローンを払ったりしているでしょうに……」
「モモは不思議な能力を持ってますよね。ただそこにいるだけで、人は何かを喋ってしまい、素晴らしいアイデアが湧いてくるという。いったいどういう存在なんだろう」
「心理学で言う『傾聴』のテクニックじゃないかな。ひたすら聴くことで、相手の言葉を導き出すという」
「モモがいると素晴らしいアイデアが湧いてくるというのは、モモがミューズ的な存在ということなのかもしれませんね」
「亀の甲羅に文字が浮かび上がるのは、どういう仕組みなんだろう。液晶パネルとか、LEDが組み込まれているとか……」
「すごく映像的な作品ですよね」
「そう。星の振り子が揺れるたびに、時間の花が次々と開かれ、世界が色彩を帯びた音楽に満たされるという描写は、すごく映画的。まるで初めから映画になることを想定していたみたい。スペクタクルな美しさなんですよね」

 私としては、時間を奪われた大人たちが、モモにいろいろせわしく突っ込むところが、深刻かつ面白かったです。これはきっとエンデも楽しんで書いたに違いありません。

(by Das Wandern)

読書会レポート 2017年2月

~モリエール『人間ぎらい』~

「もう我慢ができん。腹が立つ。僕はきょうから全人類に向かってまともに反抗してかか
る覚悟だ。」

このフランスの戯曲『人間ぎらい』は、社交辞令や嘘にあふれた人間社会が嫌で嫌でたま
らない、若き貴族アルセストが主人公です。
物語は、この本音で生きることをモットーとする青年が、こともあろうに社交界の華セリ
メーヌに恋をしたことから起こるトラブルを中心に描かれます。

紹介者としては、アルセストの性格が受け入れられるかが興味津々なところでしたが、予想通り、我らが主人公の特異な人間性(?)が話題の中心となりました。
「こんな同僚がいたら困ってしまう!」、「(常識的な友人の)フィラントに共感できる」等々の手厳しい意見には、うなずく方も多かったと思います。

一方で、「誰でも彼のように言いたいことを言いたい願望がある」、「学生時代はこんな気持ちだったかも」、「400 年前(日本では江戸時代初期!)から人間はあまり変わっていない」といった主人公を擁護する声も、意見交換の中で徐々に割合を高めていったように感じました。

また、この戯曲はコメディ描写も多いですが、そのまま本作を喜劇と見るか、一方で主人
公の立場に立って悲劇と見るかは、人によって意見が割れ、非常に興味深く感じました。

今回の会で改めて本作を読み返しましたが、皆さんの沢山の意見を聴いたことで、100 ページ程度という短さながら、読み手の立場や環境、人生経験によって、万華鏡のように目まぐるしく姿を変える、得がたい良作であると改めて感じることができました。

なお、余談ですが、閉会後に「紹介がなければこの本を手に取ることはなかった」、「会のために何回も読んだことで、より作品に愛着がわいた」等の嬉しい感想を頂きました。

こうした新たな作品、そして人との出会いの機会を得られることが、この読書会の醍醐味ではないでしょうか。
(by jiang)
プロフィール

東京読書会

Author:東京読書会
古典文学の名作を読み、カフェでそれについて自由に語りあいます。
肩の力を抜いて、真面目な話でなくてかまいません。

まず、メンバーで順番に、その月の課題作品を決めてもらいます。
それを読んで、毎月第一日曜日、東京近郊の喫茶店に集まり、感想を語りあいます。

古典的な名作というのは、名前は知っていても、実際に読んだことがない場合が多いので、これを機会に読んでみよう、というのが主旨です。
古典的名作だけに、読んで損をすることはないでしょう。

参加される方の割合は、初めての方とリピーターの方が半々といったところです。

読書会の告知は、毎月下旬頃(読書会の45日ほど前)から始めます。

★「FRaU」(講談社)、『TOKYO BOOK SCENE』(玄光社)、NHK「ラジオ深夜便」、東京ウォーカー(KADOKAWA)で東京読書会が取り上げられました!


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